Statement

私は、様々な素材と表現方法を用いながら、人間の精神の暗部や不安定さをあぶり出すために「視覚を刺激する装置」として美術を捉え、作品の制作を続けています。

 

ニーチェは「事実などというものはない。あるのは解釈だけである」と述べています。私たちが事実や現実と捉えているもの(解釈しているもの)は、本当にそこに存在したり、真理であったりするのでしょうか。自分たちが正義や不義と信じているものは、思想の違う他者にとってもその通り正義や不義であるのでしょうか。

古びたアンティークの額や写真を用いた半立体のオブジェやコラージュでは、特殊な光学フィルムを用いて、実際に在る物を屈折させて見せています。「見え方のブレ」を取り入れた作品は、見る人の記憶や深層心理を刺激し、日常、目にするモノやコトに対する認識の偏向性を暗示しています。また、油彩やコラージュの作品においても、一部は絵を覆うアクリル額の上にも描写してイメージを二層にして見せたりするなど、視覚へ刺激を与えるような美術を目指し研究しています。

 

ハイデッガーは名高い芸術論『芸術作品の根源』において、芸術とは、いわば真理を開示させる行為である。つまり、「芸術とは閉じられていた真理を露出させ、突出させることだ」と述べていますが、私は、そこに共感を覚えています。

幼少期、私は平和の重要性を伝えようとした両親により、戦争の被害者や惨状の写真を見せられました。写真の中の情景が一部心の傷となって残り、やがて人間の精神の暗部や不安定さをあぶりだすような作品の制作に没頭するようになりました。多角的な視点を持つことが多くのバイアスを解く鍵になると信じ、不安感漂う今の時代に生きる多くの人に偏った思想や固定観念によって物事を捉えることの危険性などを、作品を通じて提示していきたいと考えています。